gと烙印(@アニメてにをは)

ジブリにまつわる回想、考察を書いていきます。

gと烙印:第1回~焼きごてのような思い出(その2)

 あれはもう何年前のことでしょうか。
 近所の喫茶店の常連にぼくはなっていて、そこは隅の席で黙って本を読んでいて何時間ねばっていてもマスターは放っておいてくれるのです。
 二杯目からのコーヒーのおかわりは何杯でもずっと百円。
 そういう気前のいい商売が出来るのも、そこはセレクトした古書が店内を四囲していて古書店の商売もしていて、それにランチのカレーが評判よく土日だと行列ができるほどで(だからぼくは昼時を外して行くのですが)こじんまりとした店ながらなかなかに商売上手だなと思って、いまも通っているのです。
 マスターとはいまも注文の声をかけるだけの仲ですが、視線のやりとりだけは相思相愛のような錯覚をいだくのはぼくだけでしょうか。
 いまぼくは松本に住んでいて、その喫茶店も松本の中心街をちょっと外れたところにあります。
 松本はいま二十数万の都市。城下町でありクラフトの街でもあり、そこそこ文化都市の香りがします。
 その喫茶店も地元のひとなり観光のひとなりの有名スポットになっていて、店の真ん中にでっかく据えられた檜でできた巨大な円盤状のテーブルを囲むように座ってカレーを食べるのが観光客の作法と決まっているようです。
 でもこの盤テーブルは隅の席のぼくにも用があって、テーブルの真ん中に手を伸ばしてようやく届くくらいのポジションに、ミニシアター系の映画の上映会や芸術市民ホールで開かれる芝居や音楽のチラシが品よく扇状にレイアウトされて置かれているのでした。
 映画の上映会のチラシは毎月全種類そこから手にとってからまた定位置の隅の席に座って一枚一枚丁寧にめくっては、足を運ぶかどうか決めていくのでした。
 その一枚を見て裏に返したとき、いきなり「恩師・宮崎駿」という文言が目に飛び込んできて、ぎくりとしました。後ろからわっ!と脅かされたようなショックでした。
 どの映画か、ほのめかしてもしょうがないでしょう。
 映画は『NOT LONG, AT NIGHT』。主演は玉井夕海さん。いま調べると二〇一二年の映画。もう十年も前ですか。
 そのチラシを見て、玉井夕海さんのプロフィールに「東小金井村塾」の二期生とあり、『千と千尋の神隠し』でも声優として出演していました。
 この『NOT LONG, AT NIGHT』映画で玉井さんは主演なので、ひと言コメントを寄せていて、「恩師・宮崎駿に言われた言葉が思い出されます」云々という言葉がチラシに掲載されていたのです。
 ぼくは同じ「東小金井村塾」の塾生として、出会い方が違うと宮崎さんへの眼差しがこうも違うのだと衝たれるような思いでその文言を見つめてしまったのです。
(つづく)