gと烙印(@アニメてにをは)

ジブリにまつわる回想、考察を書いていきます。

gと烙印:第15話~高畑さんの本領それから塗り絵(その3)

その3
 ロードショーするにあたって、製作費何十億円、何百億円と大仰にうたう。
 ジブリの作品もそうだ。
 ジブリの場合、その何十億円の内訳は人件費と設備維持費だ。
 毎月毎月人件費と設備維持でだいたい一億円かかる。
 だからジブリの場合、その作品に何十億円かかってると言っても、なにか特別に金がかかる仕様とか機械が投入されたわけではなく、単に製作期間が長引いただけぶんだけ換算された維持費を言っているだけのことだ。
 だけとは言っても、ひと月一億円。
 だから『かぐや姫』は少なくとも数ヶ月公開が延びたので数億円余計に製作費がかかってる。
 ひとりの人物がぼーっとした顔で動かないでいるために、一億円、二億円と、どこかへ金が消えていく。
 すごいなあ、と思う。
 自分のせいで何億円がどんどん消えていくのに平気でいるとは、どういう神経なのだろうと思う。
 ふといま、「三億円事件」という言葉を思い出した。
 何億円が動いた汚職とかあれこれ思い出す。
 犯罪とは言わないけれど。
 でも数億円動くのは大ごとではある。
 無為とは言わないけれど、無為に見える態度で数億円か。

  実は『かぐや姫』が公開延期になったと聞いたとき、わたしはひとりで「やった!」と思った。
 「ついに、やった」と快哉を叫ぶ思いだった。
 高畑さんの作品は、制作態度がこんなのだから、いつも毎回、公開に間に合うか、関係者をどきどきさせる。
 でもここしばらくは何とか公開に間に合わせた。
 そしてついに公開延期させたこの『かぐや姫の物語』。
 制作に立ち会いたかったなあ、と思う。
 高畑マジックそのに、の、その一歩先が見れたのに、と思う。

  追い込みでの仕事の大変さはあったかと思うが、延期にあたってつかみ合いの騒ぎはおそらくなかったと思う。
 『となりの山田くん』のときはそういうことは起きなかった。
 制作開始から半年以上経っても、いっこうに仕事が動く気配はなく、仕事のないスタッフたちは外仕事を請け負って手すさびにしていた。
 プロデューサーの鈴木さんがメインスタッフルームに現れて、ぼーっとしている高畑さんの方に来て、机の上に腰を下ろした。
「どうですか、はかどってますか」
「そうですねえ」
「これ、間に合いますかね」
「どうでしょうねえ」
「延期になったら、これはまた、えらいことになりますよ」
「そうなったらそうなったで仕方ありませんねえ」(へらへら)
 こういう調子の会話であった。こういうやり取りが、こういう風に、暖簾に腕押しで、何度かくりかえされていた。

  公開延期はお金の問題もあるけれど、関係各社(各者)への被害が悩ましい。広報、営業、興行、劇場などなど、スタジオの外の関係者に迷惑をかけ、そこでまたお金も無駄にさせる。
 そういう外にかける迷惑は「制作方」が請け負う立場で、納期に間に合わせる必死さは「現場方」の責任にある。
 僕は『となりの山田くん』の完成を待たずに退社したので、高畑作品の追い込み具合を本当のところ知らない。追い込みはだから『もののけ姫』の機会しか知らない。
 この文章の締めくくりに何か出来事を書いておこう。
 『もののけ姫』の追い込みでやった《塗り絵》のことを書いておこう。(その4へつづく)

gと烙印:第15話~高畑さんの本領それから塗り絵(その4) - アニメてにをは~gと烙印