gと烙印(@アニメてにをは)

ジブリにまつわる回想、考察を書いていきます。

Reviews about every piece of animation in Purplepack at TAAF2022(TAAF2022のパープルパック・各作品のレビューです)

★ただの感想でなく、一定の定見ある者としてTAAFノミネートのアニメーション作品をレビューした。

 


『存在する不在』(Absence)

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★冬のパリ。ひとびとが行き交う街路に半裸の老人がひざまずく。その瞬間老人をとらえるカメラはスローモーションになって回り込み続け、途切れることのないカメラワークは老人を取り巻くさまざまなひとびとの姿を映し込み、老人の存在をとおして社会の縮図を描きたいようだ。
★作品がとりあつかう主題は、貧困や差別をめぐるひとびとの反応の群像図絵とも言うべきもので、いたって微温的な切り口でしかない。
★それに比べて、ひとびとの造形の『異形さ』は、ひとつのスタイルとして完成されている。老人の背中を形成するのは、波のように浮き立ち・渦巻く皮膚で造形されていて、リアリズムを無視した、彫像のようである。こういった人物造形が数多く現れる登場人物にひとり残らず念入りにほどこされた執念は驚くほどである。老人に金銭を恵んでほくそえむ少年の粘土細工のようなグロテスクさは特に気を引いた。
★社会を風刺するという主題的なアングルの微温さと、これら人物群の造形の執念深さとは、均衡を失するほどの落差がある。あるいは発想の平凡さを超えるためにも造形がここまで彫琢される必要があったのかも知れない。


『たいせつなこと』(Precious)

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★差別をめぐる物語だ。知的なり精神的なりの障害を持った者同士(異性同士でもある)が、その《劣性〉のために接近し、その劣性の《差異》のために裏切りが・別れが訪れる。
★この物語をどう接するか、観る者は態度を迫られるだろう。自分が観ているのはただの差別か、それとも何か別の視線を見せられているのか。当然つくり手は明快な解答を用意せず、曖昧な解答・のようなものを提示して終わる。
★しかし単純化・抽象化が効くアニメーションとはこの場合、人類を三別種にわけて巧みである。劣等人種の児童、平均人種の児童、平均人種の成人。この『種別化・類型化』こそが《差別》そのものだと言うことができる。このアニメは《差別》なのかそれともそうではない別ものなのか。
★人物を構成するパーツや肌理、動きのつけ方は何ら不満はなく観れた。


『駐車場でアメを食べたね』(Estrange)

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★幼馴染み同士のすれ違いを生んだその些細さなディティールは、日本人以外が観たとき、その「あるある感」が伝わるものか少し考えさせられた。
★子供たちのタコ足のような造形はユニークではあるものの、その造形が十分に生かしきれているのだろうか。ケンケンパがその最大限ではもったいない。そうは言いつつ、ギャルたちの踊り、その踊りについていこうと奮闘するネコ、あるいは卒業時にネイルに怠りないネコなど、ユニークな細部もある。
★ただ一番の問題点は、ウサギが回想しているはずなのに、回想の主体がネコだという奇妙さだ。回想の主体を一貫させるか、いっそのこと回想を真ん中にして、初手の視点と回想終わりの視点とを・別々の者に分担させる工夫があってもよかったはずだ。

 


『穏やかな狂気、激しい錯乱』(Mild Madness, Lasting Lunacy)

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『夜の番人』(The Nigh Watch

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★芸達者なつくり手だと言えるだろう。冒頭から構図の取り方からカットの積み重ねまで長編劇映画が始まるかのようだ。またモノクロに色を落とすことで表現の稚拙さ(2Dに落としこむ表現)をカバーする思慮もある。
★それでも猪が廊下を走るときの四足の足運びは見事に空回りしているし、次へ次へと開けていく扉の動きを3Dモデリングをそのまま使用していて興が削がれるし、妻が別の男と『重なって』性交しているときの決定的場面が、なんとも『平べったく』て残念なのだ。主人公の赤い鼻は最初から最後まで赤い必要があったのか。
★表現する力だけはあり余るが、肝心の表現したいものがない作品という趣だ。夢オチという安易な結末しか描けなかった。

 

自傷』(Self Scratch)

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★ひとりの女性の、等身大のネガティブキャラと小びと大のポジティブキャラたちとが相争い、助け合い、葛藤しあう。ひとりの女性がポジとネガの声をひとりで演じることでうねりがうまれ、ダイナミックなモノローグドラマになっている。
★アニメーションを成り立たせるマチエール(素材性)を大事にしながら、ネガキャラの硬さ(とがった欠片)とポジキャラの柔らかさ(弾力する身体)を対比させつつ、ただ対立・葛藤するのでなく次第に混ざっていく。かけらは水面の表面になり、ポジな小びとは泳ぎながらネガの指に変わり、闇の中でオレンジに輝くクロッキーになって自分の身体を指でなぞる。両手が自分の身体をまさぐり、衣服をいじる。女性が髪のフケや腋き毛が露見することを恐怖するような描写は女性を縛る(男の望む)女性性をよく伝える。
★否定感情から肯定勘定へとダイナミックに経めぐって、最終的には自足的に引きこもったモノローグで終わらせるのも、自責感情・自傷行為をただエンタメ的にとりあつかいかねた、つくり手の迷いとともにある結末の選択のように見えた。

 

『語らない思い出』(Souvenir Souvenir)

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★これが2022年のグランプリだそうだ。
★選考委員はみごとに『ひっかかった』と思う。いま流行りの『ドキュメンタリー・アニメ』である。これを推さないといけないいけないとでも思ったのだろうか。
★スタイルを混ぜて複雑に見せているが、基本はふたつしかない。クロッキーなど何種類ものタッチを混ぜた「現実世界」、もうひとつが主人公のアニメ作家が思い描くアルジェリア戦争パートの「カートゥーン」スタイルのふたつだけだ。
★そしてこの作品が安直なのは、『第三者に説明する』という形を様々なバリエーションで採用しながら、基本一本調子にナレーションをしているに過ぎない。かなり『杜撰な仕掛け』だ。
★ストーリーを推進するすべては『本当の話は・語られ得るか?』(=戦争体験は表現/伝達可能か否か)だが、祖父の間接的な挿話でそれを暗示させ、ラストシーンでふたつの『絵の様式』が曖昧な形で共存させる。
★大賞をとって受賞者はただほくそ笑んだことだろう。

 


『水玉模様の少年』(Polka-dot Boy)

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★どの程度ぼくはこの作品のストーリーを追えていたのだろうか。カット尻を急ぐようにつないでいって生まれる切迫感と効果的に不穏で大仰な音響に促されるままに最後まで観てしまう。
★ゴム手袋ととる仕草、紙ヒコーキの華麗な飛行、いよいよ動き出す水玉模様と、要所で見事なアニメート技術を披露しつつ、『AKIRA』の能力者児童たちや『タクシードライバー』のような容赦なく痛快な殺戮劇など様々にアイデア元があるのだろうが、圧倒的にオリジナルに、アッパーに不穏で・明快なまでの不合理さに貫かれた短編ならではの(短編だから辛うじてついていける)世界を呈示している。
★賞には恵まれないタイプの作風だが、不気味なキャッチーさがある。量産してほしいタイプの作家だ。