gと烙印(@アニメてにをは)

ジブリにまつわる回想、考察を書いていきます。

【質問箱】RE~その3

「質問箱」に集まった質問とその回答、その3です。
回答は書き直しのものもあるので、油断しないでよく読むと何か発見があるかもしれません。

【前回の、その2はこちら】

animeteniwoha.hatenablog.com

 

★質問21
絵が描けないけれど、アニメの制作に関わる(脚本やプロデューサーなど)ことはできるでしょうか?

■回答21
もしあなたがまだ若いひとならば、可能だと思います。
絵が描けないひとで現場に参加する仕事はふたつあります。「演出助手」と「制作進行」が代表的な道です。

演出助手は、監督の下に就き、各部署(作画、美術、仕上げ、撮影など)から上がってくる素材をチェックし、監督へ伺いを立てる役職。
制作進行は素材の出来上がりをスケジュールとして管理し、素材そのものも管理し、また外部スタッフ・外注先との連絡をとりあう、そういった仕事をします。

だから演出助手と制作進行は絵が描けないひとでも出来る仕事で、かつ、制作の現場全体像を把握できるので、演出家だったり、プロデューサーになりたいひとの下積みとしての面もある仕事です。

ただしこれはぼくが働いていた25年前の状況なので、情報の古さを差し引いて、現在のスタッフの分業の様子を調べてみてください。


★質問22
未経験だと働けない業界ですか?

■回答22
どの部署で働きたいか、によります。
作画、美術、仕上げ、デジタルなど、それぞれに基礎的かつ専門的な知識や技術を求められる部署の場合、基礎的な技法が身についている方が有利でしょうね。

一方で演出助手や制作進行など、特殊な技能がなくても始められる仕事もあります。そこは質問~回答21を参照してください。

「未経験」なのは、いま現役で活躍しているスタッフたちも最初はみな「未経験」です。
「未経験」というより「技能がある・ない」のことを気にしているのかなと思い、こんな回答をしましたが、お答えになったでしょうか?

 

 

★質問23
つまりアニメーションとは?

■回答23
映写・上映するために、ひとコマ・ひとコマを手作りして行う行為が「アニメ」でしょうか、ぼくの理解ですと。
それはセルでもいいし、クレイアニメでもいいし、3DCGでも同じです。
逆に「現物」の「持続している局面」を撮影して、(フィルムの場合)「1秒間24コマ」に一度「切り刻み」それを映写することで「再現されている・ように見える」のが「実写映画」だと思います。

 

★質問24
てにをはツイートを紙媒体にまとめて同人誌的なかんじに作ったりするおつもりはありますか?

■回答24
そういう提案もいただいたりしてはいます。
ただ、ツイッターなりtogetterなりの・あの独特なレイアウトを、紙で再現しようとすると、素人で組版するには難しいものがあります。
外注に出す予算もありませんし。

それに【アニメてにをは】は、インターネットで素人でも出来る発信ツールを使って実現した「ネット独自のコンテンツ」だという意味では、このままネットだけでやっていくのも、それはそれで価値があるかな?と思っています。

興味のある方は下のリンクからご覧ください。

togetter.com

 

★質問25
熱風での連載はどういった経緯で?また、この後続編または別企画で熱風での新連載は可能性はありますか?

■回答25
連載した文章は実はすでに一度、大学の学術雑誌に掲載されたのでした。
その雑誌を持参して、ジブリのスタジオに出向き、宮崎さんと鈴木敏夫さんに手渡しました。雑誌には「論文、面白かったら『熱風』に連載してください!」と直訴する手紙を封入しておきました。
そしたら後日(数か月経って)『熱風』編集部から連絡があり、連載したいと打診があって始まった次第です。

宮崎さんや鈴木さんに直にアポイントできたのは、元スタッフだからこそのコネクション(コネ)だったわけですが、『熱風』に連載してもらえたのは単に元スタッフだからではなかったと思います。
そんな「甘え」で連載させてもらえるほど「なあなあ」な雑誌では『熱風』はありません。
どの月日のバックナンバーを開いてみればわかってもらえると思いますが、各界の一流の執筆陣でぎっちぎちの雑誌です。素人のあまあまな原稿がはいるほど甘くないです。
わたしの論考の価値を(おそらく鈴木さんの方が)認めたからこそ実現した連載だと思っています。

これから『熱風』で連載することはないと思っています。
というのは、わたしがいま準備している論文はより抽象度が高く、より専門的なアニメ論文になる可能性が高いからです。
実際いま「日本近代文学会・北海道支部会報」という学術誌で断続連載している「『話の話』論」を編集長に見せたところ、「専門的過ぎて、ウチでは載せられません」とお断りされました。

 


★質問26
演出家として、今敏作品はどのように評価されていますか?
宮崎さんや高畑さんは、今敏さんのことを認知されていましたか?
もしそうであればどのような評価をされていましたか?

■回答26
わたしは「演出家」であったことはないので、「アニメ評論家」として回答します。

今敏さんの作品は一定程度、わたしは評価しています。それを詳しく書くことはこの場ではできません。
しかし、明確に評価している側面については、雑誌『熱風』2022年1月号にて『千年女優』の分析をしていますので、ご面倒ですが、手に入れて読んでいたkだけるとありがたいです。メルカリで500円前後で手に入ると思います。

近藤喜文さんと席が隣りだったときがあり、そのとき近藤さんから今敏さんの漫画作品を、コピーしてホッチキスで綴じた冊子形式で貸してもらった記憶があります。近藤さんは熱心な布教者として、スタジオ内で今敏さんの存在を知らしめていたと存在でした。
しかし不思議とアニメ作品のことは近藤さんの口から出たことはありませんでした。
まだその当時は、『パーフェクトブルー』を監督して単独デビューしたばかりだった段階でした。

でもその『パーフェクトブルー』を賀川愛さんがぼくに薦めてくれました。
ちょうどスタジオを辞めて、別のスタジオに移るか、それとも大学院に進学するか迷っていたときで、そのとき賀川さんがビデオテープを渡してくれながら、
ジブリみたいなアニメばかりが、アニメじゃないからさ」
と言って渡してくれたことは覚えています。だからジブリのなかにも当時、早くも今敏を評価していたスタッフはいたのです。
ただ高畑さんや宮崎さんの口から今敏さんのことは出なかったです。タイミングと偶然が働いただけだと思います。

 


★質問27
田辺修さんの思い出きになります

■回答27
あまり書くと田辺さんが困ってしまうだろうから、ほどほどに。
田辺さん、さすがアニメーターとして鋭いなあと思ったのは、四コマ漫画「山田くん」のある「発見」をしたときですね。
最初は四コマに描かれている「天井の電灯」が描かれたコマを探していると言われて、さがして・集めて・一覧にして渡すと、しばらくして田辺さんがぼくの方に寄ってきて、
「天井が全部、湾曲していますね」
と言うのです。
確かに一覧にしたコマに描かれた天井の線が、まっすぐではなく、湾曲しているんですよね。
「これ、なんでしょうね」と田辺さん。
「なんでしょう?」とぼく。
ふたり、見つめ合って、はははとナンセンスさに笑ったのは覚えています。

田辺さんは音楽に関しては25年前当時、渋谷系の音楽に詳しく、映画も新しい動向に詳しかったと覚えています。
ぼくも田辺さんも北野武映画に感心していて、まだ『ソナチネ』の新しさが映画ファンの間で語り草だった時期でした。
そこでぼくが、
北野武みたいなアニメって、作れるでしょうか?」
と田辺さんに問うと、
「うーん……作れるかどうかは別として、ぼくはああいう暴力シーンは描きたくないので、スタッフとして参加はしないでしょうね」
と返されて、ハッとした思いをした記憶が強烈に残っています。

 


★質問28
パワハラの具体的な内容はどの様なものだったんですか……?(言える範囲で構いません)

■回答28
無意味な労働を延々とさせるのが、あのひとの特徴でしたね。
新人として研修が終わり、演出助手に配属された当初、絵コンテすべてに「影/日向」の別に沿って「塗り絵」しろと言われました。
ある程度進めていって、タタラ場が登場して、あるシーンで光のあたっている箇所が矛盾していることが判明し、そのひとに指摘すると、
「それがどうしたの?」とにやにや笑うのです。
「でも、設定が矛盾しているんですよ」
「だから、それが何だって言うの?きみはその作業をしていればいいだけなんだからさ」へらへら笑いながらその男は言うのでした。
はて?と思いました。
じゃあ、自分がやっている作業は何のためなのだろうか。
結局ぼくはこの「塗り絵」を3か月かけて終えたのですが(それをやり終えないと、やつは次の仕事をくれないから)、ひどく徒労感を覚えながらその作業をしていました。
無意味な労働を数々、ぼくに強いて、それで喜んいる、そういうひとでしたね。
そういうことをさせたのは、ぼくに苦役を課すサディスティックな残酷さを発揮して喜んでいる歪んだ性格と、へたに演出助手の仕事を覚えさせて・自分を超える存在になられたら困る・という打算も働いていたのでしょう。
この仕事を辞める/スタジオを辞めることになった、決定的なエピソードがその2側面を強烈に浮かび上がらせたのですが、それはまたいい機会に披露するとしましょう。
あ、そうだそうだ。
『熱風』の2021年4月号にそのパワハラが書いてあります。興味がある人はメルカリなどで入手しました。ジブリ内で起こったパワハラが、ジブリが出している雑誌に載っているのです。編集部はちゃんと「裏をとって」事実だとわかったので掲載に踏み切ったのでしょう。そこらへん『熱風』の編集部は、フェアな方針でぼくの原稿を通してくれたのだと、感謝しています。

 


★質問29
小説家から脚本家になれますか?

■回答29
これはぼくの手に余る質問です。
ごめんなさい。
 


★質問30
ジブリにはどういった人たちが集まっていましたか。

■回答30
仕事に関するプロフェッショナルな意識や技能を別にすると、当時スタジオのなかには100人ひとがいて、100人も集まれば、個性はひとそれぞれ。
そのへんは、ふつうの組織・会社と変わりないと思います。
もちろん松下やソニーのように、会社のトップ・カリスマに憧れているひとは沢山いる点が普通の会社とは違うかもしれませんね。

 

(その4へつづきます)

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