gと烙印(@アニメてにをは)

ジブリにまつわる回想、考察を書いていきます。

【質問箱】RE~その5

「質問箱」に集まった質問とその回答、その5です。

そろそろ本領発揮な回答も出て来ました。

 

【前回の、その4はこちら】

animeteniwoha.hatenablog.com

 

★質問41
大友克洋さんのAKIRAについてもしご覧になっていれば印象を聞きたいです。

■回答41
ここで何か断片的なことを言って終わるには勿体ない質問ですね。
ご存じか知りませんが、わたしは【アニメてにをは・まとめ】という試みをしています。

togetter.com

あるいは、もしかしたら、将来、『アキラ』をこの
【アニメてにをは】の材料にする日が来るかもしれません。
むしろそれをすべきでしょうね。
それまで回答を保留させてください。

 


★質問42
私は思い出のマーニーが好きなのですが、作画の観点でここが良いという場面はありますか?

■回答42
ヒロインふたりが庭で手に取りあってダンスするシーンがとてもいいと思います。
このシーンに関しては雑誌『熱風』2021年11月号できっちり文章化しているので、そちらを参照してください。いまならメルカリで500円くらいで手に入ります。
宣伝とか、売らんかなではなく、いま書いているような・間に合わせの文章ではなく、きっちりとその魅力を分析・言語化されているから、厳密さを期すためにも、どうぞ手にとって読んでください。

 


★質問43
宮崎さんに誘われたって、元々アニメ業界にいたのですか?

■回答43
ジブリが、将来アニメ演出家になりたい若いひとに向けて・アニメ演出家養成塾「東小金井村塾」を95年に開いたんです(第1期)。
ぼくはその塾生になって、そこで塾長の高畑勲さんとあれこれ討論していたら、宮崎さんが噂に聞いて、面白いから雇ってみようとなったのでした。

 


★質問44
『ホーホケキョとなりの山田くん』のブルーレイの特典映像の中で、高畑さんが風呂上がりの、のぼるの演技を指導されているシーンに高畑さんの言語化能力が垣間見えている気がして好きなので、類似エピソードがあれば具体的にお聞かせ願いたいです。

■回答44
具体的にどのエピソードかまでは覚えていないので、申し訳ないんですが、

居間の出入り口でまつ子さんが立っていて、ちゃぶ台の脇にお父さんかのぼるが座っているところへ向かって、まつ子さんがその人物にアクションをする局面があって、そのときそのエピソードのコマだかレイアウトだかを見ながら高畑さんは、
「これ、アクションが起きるまで、何歩あるかわかってやっているんですかねえ」
と言うんですね。

で、記憶があやふやで申し訳ないですが、その何歩ぶんのアクションをつけることを高畑さんが言ったか、その何歩ぶんが余計なものとしてプランを退けたか、そこまで覚えていないんです。

そのときぼくは、「ああ、高畑さんの作品って、こういう《監督の意図》で充満しているんだな」って感心しつつ、それでいいのかな?とも思いました。

さっきどこかの質問で、『もののけ姫』を鑑賞する際、他の登場人物の設定はあるのに、サンの設定がないのはどうしてか?と言ってましたね。
「そんなもん、あったところで、どうなるの?」
ってぼくは思うんです。

こういう映画の観方をしていたら、高畑作品を観る場合、《監督の意図》を全部知らないと観ることが出来ないことになる。
それをしたら究極問題になるのは、「監督の意図はそうかもしれないけど、そうじゃない風に見えてしまうとき、どうするの?」という反論が封殺されてしまうことをわたしは警戒しますね。
「いや、監督の意図が正解なんだ」って意見がまだ根強いんですかね。

《作者の意図を裏切ってまで作品に接すると、こんなに楽しいことが起こる》っていう新しい《作品享受の仕方》が半世紀前に主にフランスで発信されて、20世紀末までは日本でもその動向が生きていたんですよね。
ぼくの【アニメの・てにをは】も、どちらかと言うと、その地点から出発しています。

作者の意図を聞くこと・耳を傾けること自体は悪いことではないです。
ただしそれとは別に「自分の考え方・観方」を持てることがとても重要。
「作者の意図」と「自分の見え方」とをぶつけ合わせて作品を見る態度を鍛えていくことが大切。

みんな、作り手の意図に沿って作品を見ようとしてしまうから、逆に作り手は見方の一本化になるのを恐れて「意図」を明らかにするのを恐れているんです、実は。
だから劇場のアフタートークで質疑応答で「これこれの意図は?」と聞くと、「それは見るひとの解釈の自由です」って言うのは、作り手の「逃げ」ではないんです。自分が何か「正解らしきもの」を言ってしまうと、解釈が一気に硬直化するのを恐れているのです。
ぼくの理想は、「これこれはどういうつもりで?」と聞いて、作り手が「これこれのつもりでした」と答えるのを聞いて「ああ、そういうつもりだったんですね。ぼくはこう見えてますけど」と応答できるようになったら、面白いことになると思うんですけどね。

 

 


★質問45
石曽根さん、質問させて頂きます。
ジブリは社内恋愛は盛んでしたでしょうか?
私はアニメスタジオでは虫プロマッドハウスでお仕事して社内恋愛、結婚の方がそこそこいました。私も社内結婚しましたが、ジブリさんはどうかなー、と思い質問させて頂きます。
ドキドキ。

■回答45
いましたよ。
はい。
 


★質問46
ジブリに限りませんが、ひとつの画風を大勢の人が同じ線を同じ感覚で引けているのを本当すごいと思います。
とくにジブリにはそこにガタがないというか、相当な技術をもっていると思います。
線を引く時に、なにか思うことはありますか?

■回答46
すみません。ぼくはアニメーターでないので、わかりません。
画風の統一はむしろ作画監督の力量が大きくものを言うのだと思います。
そしてセルへ(レイヤーへ)転写する際の、線の均一さは動画スタッフ、動画チェックの力量が大きいです。
「動画は原画の踏み台じゃない。いいスタジオはいい動画マンを抱えている」
と宮崎さんは言っていました。

そんな作画監督や宮崎さんでも、超絶技巧のアニメーターがあげてきたカットは修正ができないでしたね。へたにいじると作画の躍動性を殺してしまう。
だからたとえば『もののけ姫』だけ観ていても、ところどころで登場人物が前後のつながりなく・違う画風の顔になっていますよ。

そこらへんの「直し切れなさ」については、『ナウシカ』DVDの副音声でちょこっと言及されています。この副音声はとても参考になります。一度副音声で『ナウシカ』を観てみたらいかがですか?

 

 

★質問47
大きなショックを今日の作品制作や絵に関する情報等で受けられたものは何かございますか?

■回答47
「ドキュメンタリー・アニメーション」という言葉を、疑問なく使っているひとが多くなっているのが驚きですね。
戦場でワルツを』などが有名ですが、実体験をもとにしただけで「ドキュメンタリー」と言うのかな?
《隅から隅まで作りもの》でしかない「アニメ」に「ドキュメンタリー」的なものを見つけるのは難しいはず。
「ドキュメンタリー」って、「実際存在するものを写し取ったもの」という程度の意味でよいのでしょうか?
それなら「フィクション実写映画もドキュメンタリーなんだ」って言った黒沢清監督の言葉ならわからなくもないし、実写映画の新しい映画の観方を提示していると思います。
「アニメにドキュメンタリーが出来る」という安易な発言を耳にする機会が増えると、なんだろう、映画評論家・アニメ評論家たちの「大がかりな・脳軟化」現象が起きているのかな?

 


★質問48
鈴木敏夫さんのラジオで、もののけ姫に出てくる森は屋久島に足を運んで描き、タタラ場の風景はイタリアに足を運んで描いたという話がありましたが、それはジブリのアニメーター全員で足を運んだ感じなのでしょうか?

■回答48
ごめんなさい、知りません。そのときぼくはジブリにいませんでした。

 

 

★質問49
アニメーションがより儲かる仕事になる為にあったらいいなと思うことはありますか?

■回答49
ぼくは儲かるかどうかよりも、労働環境としてアニメスタジオが改善されることの方が大切だと思っています。
どこのスタジオが、ではなくて、スタジオ全般が、です。
ぼくが公開したツイートでは、給与明細ばかりがピックアップされてしまったけれど、その前後のツイートを読めば、ぼくが提言したかったのは(給与の問題も含めて)アニメ労働をめぐるさまざまな問題を喚起したかったからです。

アニメ労働問題の改善、アニメ労働環境の改善が進めば、必然的に給与のことも「ひとつの問題として・俎上に持っていける」と思うのです。

「儲かる」って、どれほどの金額が・どのような形で・誰の手にわたるものとして、質問者は想定しているんだろう?
「ひとに必要なお金って、どれくらいで、それはどのように得られるものか」という問いかけはあってもいいと思います。
そのうえで「儲かる」って何?と考えたらいかがでしょうか。

 

★質問50
質問とかではないですが、作家は作家である以前に思想家だというのを、宮崎駿さんや高畑さんを見ていて思います。

■回答50
それはあなたの自由です。それを他者に押しつけ、強圧的にならないかぎり。 

(その6へつづく)

animeteniwoha.hatenablog.com

【質問箱】RE~その4

「質問箱」に集まった質問とその回答、その4です。
回答によってはけっこう増補していたり。実況で読んだひとも楽しめるかもしれません。

【前回の、その3はこちら】

animeteniwoha.hatenablog.com


★質問31
石曽根さんや宮崎さん、鈴木さんやジブリスタッフの方々は何時出社何時帰宅ぐらいでお仕事していましか?

■回答31
役職、立場によってひとそれぞれです。
ぼくはぺーぺーの新人でしたから、朝の9時半?だったかな?ひとより30分早く出社して掃除をしてました。

帰宅は、これは演出助手という役職独特で、素材をチェックし、管理する役目なので、たとえばひとりのアニメーターが「このカットだけ終わらせて帰りたい」と言われれば、そのひとが作業を終わるまで演出助手(と制作進行)は帰れないんです。何もすることがなくて時間を持て余すことが多かったですね。気楽に読書したりしているひともいましたが、ぼくは家に帰って静かな環境でないと読書に集中できないので、この待機時間はとても苦痛でしたね。
演出助手、制作進行はいまもこの「ナンセンスな待機」を強いられているのでしょうか?
ぼくがアニメ業界を、給与の面だけではなく、もっと総合的な労働環境の改善が望まれるのは、たとえばこの演助・進行の「無意味な待機の慣行」ひとつとっても言えることです。

帰宅時間ですか?
ぼくの軽々しい発言で労基署が動くと困るので、しかるべきひとの発言を待つとしましょう。

宮崎さんは比較的節度を守って、残業もほどほどという感じでした。
ジブリは(よく知られているとおり)徹夜は禁止していました。

鈴木さんは、ぼくと働いている部署と空間的に離れていたので、その出社退勤の様子は確認できませんでした。

 

★質問32
今後アニメや担当なさった演出やコンセプトとうははどのように変化しそうだなとお考えですか?

■回答32
わたしは役職的には演出「助手」で終わっているので、このご質問にはお答えする資格がありません。 

 

★質問33
演出助手とは監督の演出意図を正確にアニメーターや背景美術、色彩設計へ伝える仕事であるという認識でよろしいでしょうか。その際の苦労話があれば教えてほしいです。

■回答33
その理解は「買いかぶり」です。
そんな「高度な判断」は演出助手に求められていません。
「正確な演出意図」は監督が各部署の責任者と「直接に」話し合いますね。
演出助手は、その打ち合わせを横で聞いて、最低限のことを汲み取っておく。

後日、あがってきた素材をチェックして、あ、これは明らかに間違ってるな、とわかった場合は作成者に差し戻したり、メインスタッフと相談して処遇を決めたりします。

ぼくは入社当時、アニメの作り方を一切知らない素人でした。だから、いきなり「メインスタッフ」のなかに組み込まれて、高度な演出指示を聞く行為は「苦痛」でしたね。
覚えることは膨大にあるし、本当に高度な指示になると、(いま振り返ると)おそらく監督とその相手のスタッフだけが理解していただけなんじゃないかと思います。
周りを取り囲む演出助手や制作進行の上司たちもその高度な演出指示の意味を理解していたか、怪しいものだと思っています。
でもその当時は、「わからないのに・大丈夫か?」という緊張感は半端なかったですね。
そしてそういう新人へのフォローが出来る「デキた上司」はまわりに一切いなかったですね。
それがぼくがスタジオを去る、一番根本的な問題だったと思います。
まわりの演出助手や制作進行はぼくを言い負かすことに必死になるばかりで、それでいて偉そうに振る舞うことに必死で、「新人を育てよう」という意思は一切感じなかったですね。

 


★質問34
フリーランスのアニメーターが、ジブリのお仕事を受けることは可能でしょうか。

■回答34
ぼくは『もののけ姫』と『ホーホケキョとなりの山田くん』しか知りませんが、フリーランスで参加していたスタッフはたくさんいました。 

 

 

★質問35
今もジブリ関係で連絡をとる方はいらっしゃいまふか?

■回答35
いましたが、先日のヤフー記事ですべてが台無しになりましたね。

 


★質問36
アニメ業界でいまでも親交のある人はいますか?

■回答36
あのヤフー記事のおかげで、25年かけて築いたアニメーション業界とのコネクションはすべて消え去りましたね。 
第一、あんな書き方されて、もう関係者に合わせる顔はないですしね。
でもあの記事のゲラにOKを出したのも確かです。
OKを出したのは「こんなひどい書き方をされて・何が起きるか」ということを、コネの消滅と引き換えにしても、経験したかったのです。
またそのときのより深掘りした心境を、このブログ上で書こうと思っています。


★質問37
悪い精神的なショックを作品制作や日常情的なもので受けた際どのように考えたいおうしますか?

■回答37
これは専門家にゆだねるべき繊細なマターなので、医療上の専門的なアドバイスを求めた方がよいと思います。 

 


★質問38
ジブリで描きやすかった作品は?

■回答38
ぼくはアニメーターではなく、演出助手だったので、このご質問にはお答えする資格はありません。

 

★質問39
もののけ姫の演出を担当する際[ここだけは!]という外せない方法はありますか?或いはそんなものはなく柔軟に周りのアイディアは取り入れていたのですか?

■回答39
演出したのは宮崎さんなので、わたしにはわかりません。 

 


★質問40
もののけ姫でアシタカはもちろんエボシ、ゴンザにさえも過去というか設定があるにも関わらず、サンには設定があまりないのは何故なんですか?

■回答40
ぼくの憶測ですが……単に宮崎さんが、設定として詰めることが出来なかったからじゃないですか?
宮崎さんも万能ではないですから。
いろいろな問題をクリアしないまま、見切り発車していた企画だったのは確かです。

宮崎さんは制作を進行させながら絵コンテを(結末を決めず)描いていくスタイルをとるのは有名なことだと思います。
その結果、何が起きるかというと、結末に向けて辻褄が合わないまま・映画が終わる、という結果を招きます。
もののけ姫』は一度や二度観ただけでは理解できない「謎」が仕掛けられていると言われて、実際何度も観てその謎を解こうとするひとがいます。
でも、あれは謎ではなく辻褄を合わせられなかった「作品の傷」に過ぎません。
もののけ姫』でその破綻ぶりを現在進行形で見ていたので、それ以降も、スタッフとして関わっていなかった作品にも関わらず、「あ、ここ、辻褄つけられてないな。傷として残ってる」とたやすく見破ることが出来ます。

それはおそらく皆さんも出来ると思います。
本編以外に存在している、設定資料だとか、ロマンアルバムだとか、「生きろ!」って後付けされたコピーだとかを、すべて・無いものとして・本編だけで観る。そのとき辻褄の合わなさを「謎」として観るのではなく、「作品の至らなさ」として観る。
もうジブリファンはそういう「新たな段階へ・成熟」してもよいように思えます。

 

(その5につづきます)

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【質問箱】RE~その3

「質問箱」に集まった質問とその回答、その3です。
回答は書き直しのものもあるので、油断しないでよく読むと何か発見があるかもしれません。

【前回の、その2はこちら】

animeteniwoha.hatenablog.com

 

★質問21
絵が描けないけれど、アニメの制作に関わる(脚本やプロデューサーなど)ことはできるでしょうか?

■回答21
もしあなたがまだ若いひとならば、可能だと思います。
絵が描けないひとで現場に参加する仕事はふたつあります。「演出助手」と「制作進行」が代表的な道です。

演出助手は、監督の下に就き、各部署(作画、美術、仕上げ、撮影など)から上がってくる素材をチェックし、監督へ伺いを立てる役職。
制作進行は素材の出来上がりをスケジュールとして管理し、素材そのものも管理し、また外部スタッフ・外注先との連絡をとりあう、そういった仕事をします。

だから演出助手と制作進行は絵が描けないひとでも出来る仕事で、かつ、制作の現場全体像を把握できるので、演出家だったり、プロデューサーになりたいひとの下積みとしての面もある仕事です。

ただしこれはぼくが働いていた25年前の状況なので、情報の古さを差し引いて、現在のスタッフの分業の様子を調べてみてください。


★質問22
未経験だと働けない業界ですか?

■回答22
どの部署で働きたいか、によります。
作画、美術、仕上げ、デジタルなど、それぞれに基礎的かつ専門的な知識や技術を求められる部署の場合、基礎的な技法が身についている方が有利でしょうね。

一方で演出助手や制作進行など、特殊な技能がなくても始められる仕事もあります。そこは質問~回答21を参照してください。

「未経験」なのは、いま現役で活躍しているスタッフたちも最初はみな「未経験」です。
「未経験」というより「技能がある・ない」のことを気にしているのかなと思い、こんな回答をしましたが、お答えになったでしょうか?

 

 

★質問23
つまりアニメーションとは?

■回答23
映写・上映するために、ひとコマ・ひとコマを手作りして行う行為が「アニメ」でしょうか、ぼくの理解ですと。
それはセルでもいいし、クレイアニメでもいいし、3DCGでも同じです。
逆に「現物」の「持続している局面」を撮影して、(フィルムの場合)「1秒間24コマ」に一度「切り刻み」それを映写することで「再現されている・ように見える」のが「実写映画」だと思います。

 

★質問24
てにをはツイートを紙媒体にまとめて同人誌的なかんじに作ったりするおつもりはありますか?

■回答24
そういう提案もいただいたりしてはいます。
ただ、ツイッターなりtogetterなりの・あの独特なレイアウトを、紙で再現しようとすると、素人で組版するには難しいものがあります。
外注に出す予算もありませんし。

それに【アニメてにをは】は、インターネットで素人でも出来る発信ツールを使って実現した「ネット独自のコンテンツ」だという意味では、このままネットだけでやっていくのも、それはそれで価値があるかな?と思っています。

興味のある方は下のリンクからご覧ください。

togetter.com

 

★質問25
熱風での連載はどういった経緯で?また、この後続編または別企画で熱風での新連載は可能性はありますか?

■回答25
連載した文章は実はすでに一度、大学の学術雑誌に掲載されたのでした。
その雑誌を持参して、ジブリのスタジオに出向き、宮崎さんと鈴木敏夫さんに手渡しました。雑誌には「論文、面白かったら『熱風』に連載してください!」と直訴する手紙を封入しておきました。
そしたら後日(数か月経って)『熱風』編集部から連絡があり、連載したいと打診があって始まった次第です。

宮崎さんや鈴木さんに直にアポイントできたのは、元スタッフだからこそのコネクション(コネ)だったわけですが、『熱風』に連載してもらえたのは単に元スタッフだからではなかったと思います。
そんな「甘え」で連載させてもらえるほど「なあなあ」な雑誌では『熱風』はありません。
どの月日のバックナンバーを開いてみればわかってもらえると思いますが、各界の一流の執筆陣でぎっちぎちの雑誌です。素人のあまあまな原稿がはいるほど甘くないです。
わたしの論考の価値を(おそらく鈴木さんの方が)認めたからこそ実現した連載だと思っています。

これから『熱風』で連載することはないと思っています。
というのは、わたしがいま準備している論文はより抽象度が高く、より専門的なアニメ論文になる可能性が高いからです。
実際いま「日本近代文学会・北海道支部会報」という学術誌で断続連載している「『話の話』論」を編集長に見せたところ、「専門的過ぎて、ウチでは載せられません」とお断りされました。

 


★質問26
演出家として、今敏作品はどのように評価されていますか?
宮崎さんや高畑さんは、今敏さんのことを認知されていましたか?
もしそうであればどのような評価をされていましたか?

■回答26
わたしは「演出家」であったことはないので、「アニメ評論家」として回答します。

今敏さんの作品は一定程度、わたしは評価しています。それを詳しく書くことはこの場ではできません。
しかし、明確に評価している側面については、雑誌『熱風』2022年1月号にて『千年女優』の分析をしていますので、ご面倒ですが、手に入れて読んでいたkだけるとありがたいです。メルカリで500円前後で手に入ると思います。

近藤喜文さんと席が隣りだったときがあり、そのとき近藤さんから今敏さんの漫画作品を、コピーしてホッチキスで綴じた冊子形式で貸してもらった記憶があります。近藤さんは熱心な布教者として、スタジオ内で今敏さんの存在を知らしめていたと存在でした。
しかし不思議とアニメ作品のことは近藤さんの口から出たことはありませんでした。
まだその当時は、『パーフェクトブルー』を監督して単独デビューしたばかりだった段階でした。

でもその『パーフェクトブルー』を賀川愛さんがぼくに薦めてくれました。
ちょうどスタジオを辞めて、別のスタジオに移るか、それとも大学院に進学するか迷っていたときで、そのとき賀川さんがビデオテープを渡してくれながら、
ジブリみたいなアニメばかりが、アニメじゃないからさ」
と言って渡してくれたことは覚えています。だからジブリのなかにも当時、早くも今敏を評価していたスタッフはいたのです。
ただ高畑さんや宮崎さんの口から今敏さんのことは出なかったです。タイミングと偶然が働いただけだと思います。

 


★質問27
田辺修さんの思い出きになります

■回答27
あまり書くと田辺さんが困ってしまうだろうから、ほどほどに。
田辺さん、さすがアニメーターとして鋭いなあと思ったのは、四コマ漫画「山田くん」のある「発見」をしたときですね。
最初は四コマに描かれている「天井の電灯」が描かれたコマを探していると言われて、さがして・集めて・一覧にして渡すと、しばらくして田辺さんがぼくの方に寄ってきて、
「天井が全部、湾曲していますね」
と言うのです。
確かに一覧にしたコマに描かれた天井の線が、まっすぐではなく、湾曲しているんですよね。
「これ、なんでしょうね」と田辺さん。
「なんでしょう?」とぼく。
ふたり、見つめ合って、はははとナンセンスさに笑ったのは覚えています。

田辺さんは音楽に関しては25年前当時、渋谷系の音楽に詳しく、映画も新しい動向に詳しかったと覚えています。
ぼくも田辺さんも北野武映画に感心していて、まだ『ソナチネ』の新しさが映画ファンの間で語り草だった時期でした。
そこでぼくが、
北野武みたいなアニメって、作れるでしょうか?」
と田辺さんに問うと、
「うーん……作れるかどうかは別として、ぼくはああいう暴力シーンは描きたくないので、スタッフとして参加はしないでしょうね」
と返されて、ハッとした思いをした記憶が強烈に残っています。

 


★質問28
パワハラの具体的な内容はどの様なものだったんですか……?(言える範囲で構いません)

■回答28
無意味な労働を延々とさせるのが、あのひとの特徴でしたね。
新人として研修が終わり、演出助手に配属された当初、絵コンテすべてに「影/日向」の別に沿って「塗り絵」しろと言われました。
ある程度進めていって、タタラ場が登場して、あるシーンで光のあたっている箇所が矛盾していることが判明し、そのひとに指摘すると、
「それがどうしたの?」とにやにや笑うのです。
「でも、設定が矛盾しているんですよ」
「だから、それが何だって言うの?きみはその作業をしていればいいだけなんだからさ」へらへら笑いながらその男は言うのでした。
はて?と思いました。
じゃあ、自分がやっている作業は何のためなのだろうか。
結局ぼくはこの「塗り絵」を3か月かけて終えたのですが(それをやり終えないと、やつは次の仕事をくれないから)、ひどく徒労感を覚えながらその作業をしていました。
無意味な労働を数々、ぼくに強いて、それで喜んいる、そういうひとでしたね。
そういうことをさせたのは、ぼくに苦役を課すサディスティックな残酷さを発揮して喜んでいる歪んだ性格と、へたに演出助手の仕事を覚えさせて・自分を超える存在になられたら困る・という打算も働いていたのでしょう。
この仕事を辞める/スタジオを辞めることになった、決定的なエピソードがその2側面を強烈に浮かび上がらせたのですが、それはまたいい機会に披露するとしましょう。
あ、そうだそうだ。
『熱風』の2021年4月号にそのパワハラが書いてあります。興味がある人はメルカリなどで入手しました。ジブリ内で起こったパワハラが、ジブリが出している雑誌に載っているのです。編集部はちゃんと「裏をとって」事実だとわかったので掲載に踏み切ったのでしょう。そこらへん『熱風』の編集部は、フェアな方針でぼくの原稿を通してくれたのだと、感謝しています。

 


★質問29
小説家から脚本家になれますか?

■回答29
これはぼくの手に余る質問です。
ごめんなさい。
 


★質問30
ジブリにはどういった人たちが集まっていましたか。

■回答30
仕事に関するプロフェッショナルな意識や技能を別にすると、当時スタジオのなかには100人ひとがいて、100人も集まれば、個性はひとそれぞれ。
そのへんは、ふつうの組織・会社と変わりないと思います。
もちろん松下やソニーのように、会社のトップ・カリスマに憧れているひとは沢山いる点が普通の会社とは違うかもしれませんね。

 

(その4へつづきます)

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【質問箱】RE~その2

「質問箱」に集まった質問とその答え、その2です。

その1はこちら。

【質問箱】RE~その1 - gと烙印(@アニメてにをは)

 

★質問11
石曽根オールタイムベストを教えてください。
また宮崎さんや高畑さんがオススメしていた作品などがあれば教えてください。

■回答12
ぼくのベストなんて、知りたいひとがいるのかな?
これは省略しましょう。

高畑さんはドナルド・リチーの本『映画のどこをどう読むか』を薦めてくれました。リチーによる映画『バリー・リンドン』読解を褒めていました。
宮崎さんからは何冊も本を借りっぱなしです。そのひとつは堀田善衛の『方丈記私記』でした。堀田善衛は宮崎さんが私淑していた作家です。この本を宮崎さんはとても身に詰まされる思いで読んだと言っていました。

リチーなり、堀田善衛なり、読んでみてはいかがでしょうか?

 


★質問13
宮崎さんの逸話だと、厳しかったり怖かったりというのをよく聞きます。
逆に笑った話や優しかった話などを聞きたいです。

■回答13
宮崎さんがあるとき、NHKの食にまつわるドキュメンタリーをスタッフ有志と一緒に会議室で観る、という晩がありました。
遊牧民族を、食にスポットをあてたドキュメントだった記憶があります。
「わかったか!食文化ってのはひとの生活の基本なのだ。その大切さがわかったか!」

そう言ってスタジオへ戻ると、宮崎さんのはからいでメインスタッフルームのテーブルには宅配ビザが何枚も届いていて、コカ・コーラの巨大ペットボトルもずらっと並んでいて、宮崎さんが、
「ほらっ!腹が減っているだろ。食べろ!」
って。
食文化の大切を説いた後でジャンクフードですか……
個人的にすごく脱力した「事件」でした。

 

★質問14
この人は凄腕過ぎると思われるアニメーターは誰でしょうか?

■回答14
ぼくはどのアニメーターがどうこう、という見方はしません。
作品全編のなかでこのカットのつくりがどうこう、という評価はするのですが、それでいて、じゃあそのカットは誰が描いたかには不思議と興味がありません…

 

★質問15
ジブリ作品のここの作画が凄い、演出が凄い!って思われるカットはどこですか?

■回答15
沢山あるので、答えが出来ません。
それを世間に知らしめるために、いま【アニメのてにをは まとめ】をやっています。

togetter.com

 

★質問16
ジブリで働こうと思った理由と辞めた理由(掲載済みでしたらすみません)を知りたいです

■回答16
ジブリで働こうと思ったのは、宮崎さんに誘われたからです。
「こういう珍しい機会もないから、働いてみよう」と思ったからです。

辞めようと思ったのは、直属の上司からパワハラを受け続けていたからです。
高畑さんふくめ周囲のひとに相談しましたが、対応をとってくれるひとがいなかったので、ジブリを辞めて別のアニメスタジオで働くか、大学院に進学しようかと思って、スタジオを辞めました。

 

★質問17
ジブリとかの方は、放映中のアニメや最新映画をチェックしたりしてますか?

■回答17
ぼくがジブリにいたのは『もののけ姫』と『ホーホケキョとなりの山田くん』だけの2年間です。
その経験だけで言えば、見ているひとは見ているし、まったく関心ないひともいました。

ある日、残業時間中に制作進行の西桐さんに誘われて会議室に行くと、7~8人のスタッフが集まっていて、それぞれ「お宝ビデオテープ(VHSの時代です)」を持ち寄って鑑賞してました。
放映されて間もない『るろうに剣心』の1話の神作画や、入手しにくいオリジナルビデオ、中国の毛筆画アニメーションをその場で観たりしました。

そういう情報交換を当時はしていたんですね。

 

★質問18
1番好きな食べ物と1番嫌いな食べ物は何ですか?

■回答18
来ましたね。こういう、応答する気を失せさせる質問。
好きも嫌いもとくにありません。 

 


★質問19
高畑監督とのおもしろエピソード、記憶に残っている事を教えてほしいです!

■回答19
『ホーホケキョとなりの山田くん』の企画準備が始まったばかり、まだ高畑さんが企画に乗り気でなくて、出社するのが午後のすごく遅い時間だったり、結局出社しなかったり……

高畑さんが珍しく定時に出社して、机のわきに設置された小さなテレビでアニメ作品を気難しそうに見ている。
ほかのメインスタッフが手すさびに、何か仕事を見つけて作業で時間をつぶしているとき、ふっと高畑さんがテレビから目を離して、われわれメインスタッフに顔を向けると、
「これ、アニメ『がんばれ、タブチくん』、つまらないですね~」(へらへら)

(ああ、この企画が前進するのは、まだ先だなあ……)と誰もが思ったことでしょう。

 

★質問20
2Dアニメ時代のディズニーと3Dアニメに移行したディズニーをそれぞれどのように石曽根さんは捉えられておりますか?

■回答20
このご質問にお答えするだけの見識はまだわたしにはありません。
自分の「視え方」がブレるのを恐れて、あえてアメリカの商業アニメを避けていました。
でも『熱風』での連載が今年の3月に終わり、そろそろ色んなアニメーションを観ても大丈夫だなと思っています。
だから、そろそろディズニー全作品をこつこつと観始めてもいいかなと思っています。
すみません、いまはこの段階です。

(その3へつづきます)

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【質問箱】RE~その1

ぼくのツイッター上( @animeteniwoha )で質問箱に集まった質問とその回答をまとめて載せます。
その第一弾。

質問箱をやろうとしたぼくの動機は、「フォローしてる皆さんは、ぼくに対しどんな角度から興味を持っているのだろう?」という関心があり、今後の活動の参考にしようと思ったからでした。

さて「質問箱」のサービスをうまく停止するやり方がわからずに「退会」したら、長い文章の答えが尻切れでしか残らない結果になってしまいました。
あらためて回答を書き直しました。正確に再現していないので半分オリジナルな回答になっています。
なかには、新しい回答も交じっています。


★質問1
自分の長所が見つからないんですけど、どうしたらいいでしょうか

■回答1
ひとと「違ってしまうこと」をとことん突き詰めることは、ひとつの方法かもしれません。
この方法は、「自分だけの・本当のオリジナル」を発見する方法ですが、そのかわりにとても辛い作業になります。
それに耐えられたとき、誰にも真似のできないあなたの姿が立ち現れると思います。
その自分の姿をプライドを持って受け入れらたとき、それはあなたの長所なのだと思います。
ぼくもそんな風に生きてきました。
ご参考までに。


★質問2
感想で恐縮なのですが、宮崎さんのアニメに対する概念は日常に対する正確な理解があり、こちら側に物理学の視点もあるとより理解が深まるようにかんじました。そのような視点でアニメーションやイラストレーションを拝見したことがなかったので目から鱗でした。講座をツイートしてくださり感謝です。ありがとうございます。

■回答2
ご感想ありがとうございます。
「作用と反作用」という物理学の言葉を、日常の仕草に応用することについては、警戒するひともいます。わたしも物理にさほど詳しくないまま、使っています。あくまで「イメージとして」理解していただけると助かります。

 

★質問3
スパイダーアースについて、どう思われましたか?個人的には現代のアニメーション表現を軽々と超えられてしまったように思ってショックを受けました。

■回答3
ごめんなさい。観ていません。
ただ、いま予告編だけ観ましたが、デジタル時代の「ひらべったい・セルアニメ」そのものが持つ「セルアニメ特有の表現」を追究していけば、まだまだ「セルアニメであるメリット」は負けないと思います。
それはそれとして、新しい表現にショックをうける感度は持ち続けていってください。

 

★質問4
絵の練習法でおすすめなものがあれば教えていただけたら嬉しいです。

■回答4
ジブリ作品で長年動画チェックをしてきた舘野仁美さんのツイートは、現場に長年携わってきた方ならではの示唆に富む教えを数々教えてくれます。
「動画検査のための備忘録@舘野仁美」
 @HitomiTateno
フォローして過去のツイートを深堀りしてみたらどうでしょうか。

 

★質問5
アニメーションの出来、不出来に関係なく、ご自身が1番好きだと思うアニメ作品は何ですか?理由も教えてください。

■回答5
「出来・不出来に関係なく」というキーワードに沿って言うと、『王立宇宙軍オネアミスの翼』はいまでもぼくにとって大きな作品ですね。
これを言うと驚く人もいると思いますが『オネアミス』は「不出来」な作品だと思います。

オープングのあと、主人公・リイクニが昼寝から起きたとき、寮のなかには誰もいなくて、開いた窓から風が軽く吹き寄せてカーテンが揺れる。
そのカーテンの揺れが「不出来」なんですよね。

自分たちの得意な表現を(元)ガイナックスのひとたちは突き進み、カーテンの揺れみたいな「なにげない・日常の描写」も突き詰めていったら……『エヴァ』シリーズでミサトのマンションでの生活描写はまったく違うものになっていたでしょうね。

そういう意味でも『オネアミスの翼』はアニメの歴史の「あり得た・可能性/失われた可能性」を思い起こさせる貴重な作品だと思います。

 

★質問6
鬼滅の刃や呪術廻戦、シンエヴァンゲリオンなど、特典を用いて興行をあげる映画をどう思いますか?(特典というのは、限定の漫画だったり、パンフレットだったり、描き下ろしのイラストなどです)

■回答6
「どうやって作品を多くの人に観てもらおうか?」と考えての苦肉の商売戦略だから、それはそれでいいんじゃないでしょうか?

ジブリだってジブリ美術館とかジブリパークとか巨大な「特典」を提供していますよね。
ジブリはあの「回路」をつかって、ファンたちに「ジブリ作品群の中を永遠にループ」させてはいないでしょうか。
「いい・加減」なところでループから抜け出せるように出来ていたらいいんでしょうけれど。

 

★質問7
もののけ姫のエボシの里の鍛冶達は、ハンセン病患者の設定だったと思います。
障害者や病人の描写で、ジブリ内で気を付けたことはありますか?
また上映後に反響や問題などは発生しましたか?

■回答7
そういう設定があることは、当時オフィシャルで明らかにしていなかったですし、本編を観ただけではそういう言及は存在しません。
なので何も問題は起きませんでしたし(わたしの知る範囲では)、スタッフも特に何も疑問を感じないで・ハンセン病に関心を持たないまま・作業を進めていました。


★質問8
宮崎さんやジブリの知られていないトリビアをお願いします。

■回答8
制作デスクの重鎮だった川端俊之さんは、関わった作品のすべてのカットを、絵コンテでは何番目にあたるか、そらで言えました。 

 

★質問9
最近の放映中のアニメで舌を巻いた作品はありますか?
作画面、演出面、ストーリー面いずれでもかまいません。

■回答9
基本的にテレビアニメは観ません。
流行に左右されず、何十年と観るに値するものだけに注意していようというスタンスです。
テレビアニメも時間の経過とともに残ったものだけ観ていれば、ぼくみたいな中途半端なアニメ観察者には十分だと思っています。


★質問10
アニメや映画を勉強するのに、意識すべきことはありますか?

■回答10
異質なものを遠ざけないことでしょうか。

ジブリ作品だけでなく、いろんなアニメを観る。
アニメだけでなく、実写もいろいろ観る。
日本の映画だけじゃなくて、海外の映画を観る。
エンタメだけでなくアートフィルムも観る。

たとえばジブリアニメにだけ夢中になるのではなく、ジブリ映画は古今東西・数ある映画の「one of them」 に過ぎないという意識で接することが出来ればいいかなと思います。

(その2へつづきます)

animeteniwoha.hatenablog.com

【ジブリの給与明細について】その1~観光スポットになって

★はじまりはじまり
ぼくがツイッターであげたジブリの(25年前の)給与明細が、ネット上ですこし話題のようです。
この件でぼくが経験したことを、いくつか書いていこうと思います。
これはその第1弾。

問題となった記事のyahoo版がこちら。

news.yahoo.co.jp

これ、ひどいな、と思うのは、元記事では引用されていたツイートやそこにくっつけた画像がすべて省略されていることですね。それだけでずいぶん印象が違う。
元記事はこちら。

ジブリですらこんなに過酷なのか…1997年当時「新人2年目の給与明細」にネット騒然 公表した元演出助手の思い|まいどなニュース

★《観光》スポットになったわたし
この件について思うところ、いろいろあるひとは一定数いると推察できるだけに、まず言うことがそれかよ!とつっこみが入るかも知れない話題から始めます。

しかしこれからする話は、この記事の反響で一番インパクト強く思ったことであるのも確かなんです。

昔から出不精なぼくは、ほかのひと(知人や他人)が旅行をしているのを見たり聞いたりすると、「そんなお金があっていいな……」と思いつつ、「そんなことして、何になるんだろう?」とも正直思っていて、「でも、これはひがみなんだろうなあ……」と複雑な心境になることが多かったのです。

でも今回、記事の反響で、ツイッターのアカウントを訪問してくる沢山のひとのアクションを見て、
「あ、観光旅行って、こういうことだったんだ!」
って、長年の疑問がようやく氷解しました。

★旅行が《観光》で終わるひとたち
結論を言ってしまうと、
「観光旅行って、予め見たいものを決めておいて、実際行ったさきで《それ》だけを見て・満足して、そのまま帰る、そういう”貧しい”行動が《観光》なんだな」ってこと。
言葉をかえて言えば、
「見たいものしか見ない・視線」、それが観光。

「じゃ、それ以外に何があるわけ?」
と問われたら、ぼくの場合、
「行ってみたら、思いがけないものに出会って、予定が大きく狂う」
そういうものだと思ってます。

「そんなの、おれだって、そうだよ」
そう言うひともいるかもしれません。
でも、ぼくのアカウントを見に来たひとの8割9割は、記事にリンクされたつぶやきだけ見て、そのまま帰っていきましたよ。

そのついでに名所のおさわり仏像でもさわるような感じでそのつぶやき「だけ・いいね!」したり、記念写真を撮るみたいにそのつぶやき「だけ・リツイート」したりして、そのまま去って行くのが、体感として伝わったんですよね。

★《それ以外》に目がいくこと
このアカウントに足を運んで、目当てのツイート以外のものに目を配っている人はとても少ない。
いまこの記事を目にしているのは、そんなごく少数派のひと。
どれどれ?と観光スポットに来てみたら、「あれ、予想とちがって、何かヘンなものがいろいろあるな」と気づいて「フォロー」した、そういうひとたちが、いまこの記事を読んでいるのではないでしょうか?
この瞬間、その営みは「観光」じゃないタイプの「旅行」になっている。

実際ぼくも、旅行に行くとだいたい「観光」じゃなくなるんですよね。

ちょっと余計な、思い出話をします。飛ばして読んでくだされば。

函館に旅行に行ったときに、いまも強烈に覚えているスポットは、路面電車の終着駅を降りて、いろんなデザインのマンホールを追ってそのまま歩いていたら突然目の前に現れた、古くて巨大な小学校建築。
象と至近距離で対峙したかのような圧倒的な存在感で、「何、これ?」と。
近所の靴屋のおじさんが舗道の植え込みに水をやっていたので、あの小学校のいわれを聞いてみたら、怪訝な顔されました。旅行から帰ってネットで調べても、存在は確認できたものの、別に記念すべき建造物ではありませんでした。
でもあの小学校が、ぼくにとって函館の一番の思い出なのです。

韓国に旅行したときは、大学院の研究室仲間で行ったから、戦史記念館とか一応見に行きましたね。
でも、それもまた「観光的」でわけで。
というのは、研究者として自分たちは「知的な存在」だから、それ相応に「知的に・誠実に振舞おう」と、そういう「硬派なスポット」に行っただけで、それもまた「観光」に過ぎないのですね。
ぼくは自由行動の日、ソウルの街を無目的に歩いていて、海賊版DVDを売ってる店がやたらに多いなあと思って、そのひとつの店に入ってみました。ラインナップを見ていると、韓国アイドルグループのライブDVDがけっこうな数あって、日本ではぜんぜん知られていないけれど韓国では熱狂的なファンが相当いるんだろうなあと想像すると、そのギャップに好奇心が刺激されました。
そうですね……ちょうど「冬のソナタ」ブームがまだ終わってない2000年代前半のこと。韓国のアイドルグループがまだ大々的に日本に進出していないころです。いま振り返ると進出の模索期にあったようです。
SESとかファンケルなんてアイドルグループのDVDやVCDをいくつか買って日本に帰って観たりしました。
それが韓国の(自分用の)土産もの。

なに書いているんだろう。

もうひとつだけ書かせてください。
沖縄に旅行したとき。
リゾートやグルメや観光スポットも回りました。
それから報道で定期的に伝えてくる、在日米軍の基地を見たくて、レンタルスクーターで基地の方まで接近しました。
でも一般人は遠巻きに見るしかないんですよね。
米軍家族がコテージの庭先で焼肉パーティーしてるのをフェンス越しに見ながら、ふっと、今日は日曜だったんだ、だから上空を飛行機が飛んでないんだなと気づいたり。
帰り道を、違うルートで那覇へたどっていたら、日が暮れかけるころに偶然広い公園で縁日が開かれていたので、スクーターを下りてなんとなく寄ってみたら、5対5ぐらいな数で日本人とアメリカ兵が行き交っていたのが印象的です。
でも、報道関係者並みに基地問題を知りたいと思ったら、案内してくれるコーディネーターが必要なんだなと痛感しました。ぼくが出来たのは見物人レベル。
でも、だとしたら、そういうコネクションのない「本土からの・一般旅行者」にとっての「基地のリアル」って、なんだろう?って。
いまも答えが出てないです。

★結句
話を戻すと、今回ぼくが炎上させた・いくつかの記事の反応だけ観察していても、多くのひとは《旅行がはらむ・しょせん”観光的”でしかない・体験》で満足しているんだってことがよくわかりました。
目当ての記事「だけ」見て、手でさわって、記念写真撮って。
その程度で、あの記事のことを「わかった」気になられてもなあ。
どこか炎上するたびそのスポットへ《旅行》しても、その話題の箇所だけ・いいね!して、記念写真撮って、そのまま帰るんじゃ、それ《観光》なんだよね。

今回ぼく自身が「観光スポット」になってしまって、その「観光的リアクション」の安易さ・皮相さ・貧しさをまさに「体感」できて現れたこの感慨です。
《観光的に・生きている》ひとはだから、みなさんがいま読んでいる・この記事に一生たどりつくこともないのでしょうね。

これがあの露悪的な記事に、あえてゴーサイン出してまで経験したことの、成果そのいち、なのでした。

ぼくはツイッターから場を移すと、大したことのない話を、こんな風に、長々と書いてしまう人間なのでした。

つづきはまた後日。

gと烙印:第5話~見世物になること

1.
 先日東京へ行った。【2010年代前半のこと】
 札幌時代の恩師・亀井秀雄氏が東京で講演することになり、駆けつけたのだ。
 講演会は終わり、打ち上げに参加した。主催者や関係者の大学教員、出版社の社長、社員らがいた。
 何らその筋の肩書きのないぼくは座の隅で談話に耳を傾けていた。
 恩師はジブリ好きである。
 いつかその話題がまた出るのはないかと内心恐れていたが、やはり話を向けられた。
 近々、宮崎さんの新作「風立ちぬ」が公開されると教えられた。
 ぼくは、当時会社の広報のやり口をつぶさに見ていて、事前に情報を知るとその宣伝の切り口に沿って映画を見るように仕向けられる巧妙な手口を知っているので、ジブリ作品に関しては観るまで可能限り情報を入れない。
 だからその話題にも大して関心を呼び起こさなかった。
 ただ「風立ちぬ」という堀辰雄の作品の名前が出たので、ちょっとびっくりした。

 四年ほど前だったが、「アリエッティ」公開後に宮崎さんの本拠・二馬力の社屋に遊びに行った。
 そのとき宮崎さんが盛んに話していたのが、この「風立ちぬ」のことだった。
 ああ、あれを映画をしたのだな、と思った。ぼくはその座のひとびとに答えた。
「そのときあの小説のことを盛んに話していました。あれが映画になったのですね。
 宮崎さんの話を聞いていて、この人はつくづくサナトリウムが好きなのだなあと思ったものです。」
 宮崎さんから「風立ちぬ」への思い入れを聞きながら、ぼくはサナトリウムに語るくだりで、「となりのトトロ」の母親が療養する病院、「もののけ姫」のらい病患者が住まうタタラ場の一角を思い起こしていたものだ。

2.
 しかし話をふったどこかの大学のセンセイは、
 「サナトリウム? ゼロ戦の話だってよ」
 「ああ、そう言えば、ゼロ戦の話も一緒にしていましたよ。そうか、あれを映画にしたのか」
 座が少し白けた。
 ぼくが単にジブリにちょっと関わっただけのやつだと思ったのが、案外に宮崎さんの内情に詳しいことに周りの者が腰がひけたのだと即座に理解した。
 ゼロ戦の話を持ちだした教師がひと息置いて聞いた。
「それで、君はなんの作品に関わったの?」
もののけ姫のときです」
「まあ、道を外れたわけだ」
「そうですね。かわりに僕と同期のやつが「アリエッティ」を作りましたよ」
「ああ、あれね」
 誰かのその言い草には、あの作品への軽侮が感じられた。
 アリエッティが世評の低さと反対に、とてもいい作品だったと言おうとしたら、ゼロ戦センセイが先を制して言った。
「それで、キミ、やっぱり嫉妬したの?」
 そう言って教師は、僕に顔も向けず盃を傾けながらニヤけた。
 ああ、やっぱりそういうことか。
 こいつは敵意とやっかみとからかいでもって、最初からオレに話しかけていたのだな、
 僕は嘘をついた。
「そうですね。多少嫉妬しましたよ」
 男は満足そうに笑った。


3.
 こういうことがたまにあるから、ぼくはジブリの話はしたくない。
 「アリエッティ」は、ここ五年、あるいは十年の間に作られた商業長編アニメで十本の指に入る作品として、ぼくは敬意を払っている。
 劇場で見たとき、ひとつひとつのカットにみなぎる活劇のわくわく感に(特に前半の四〇分)、これでようやく宮崎アニメの正統な継承者が生まれたと思ったものだ。
 監督である同期の米林くんに、嫉妬など感じなかった。
「よくぞやってくれた」
 それだけだった。
 しかし、はなからからかいの調子で話題を持ちかけたこういうゲスな男に何を話したところで、真率な思いなど伝わるわけがない。

 ぼくは宮崎駿から、演出家になるべく育てられた。
 道は外れたとはいえ、その訓練を通じて得たアニメを凝視する緊張感はいまでも発動しようと思えばそうできる。
 観客が漫然とアニメの画面を見ているとき、ぼくはその同じ画面にバババッと視線を走らせ、まあ十倍の情報量を見て取る迅速な視力を持っている。それはとても疲れる作業なので、アニメはほとんど見ない。
 端的に言って、アニメに対して生半可な人間ではないと、揺るぎないプライドを持っている。
 そういう人間が、半可通の下世話な酔漢の、肴のつまみにされる。
 アカデミズムの上下関係の中で、ただぼくは道化役を、怒りを押し殺して演じるだけだ。
 だからぼくはジブリに関わる話を、一般人にしたくない。
 怒りにまかせてこれを書いた。
 こういう侮辱的な扱いをこの十五年あまり、何百回も受けてきた。
 馴れはしない。怒りだけは消えない。
 それはとてもいいことだ。初心を忘れてはいないと再確認できるんのだから。

おまけ。
この十余年に作られた商業長編アニメ、ベスト5。
崖の上のポニョ
千年女優
●ドラエモン/のび太の恐竜(あるいはとなりの山田くん
アリーテ姫
借りぐらしのアリエッティ
●選外/時をかける少女
このベストに野心を感じてくれる人がいるかどうか。